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明らかに不自然に黙ってしまったけれど、彼はそのまま何も言わなかった。
とくとくとく。
服越しに伝わるいつもより少し早い彼の心音が、なんだか俺の罪悪感を宥めてくれるているような気がする。
世界で一番この腕の中が落ち着くのはどうしてかな。いつも、あんなにもドキドキさせられているのに。
穏やかな沈黙とともに、だんだんと自分を責める気持ちが薄れてきて、そんな浮ついた疑問が脳裏に浮かぶまでになってきた。
「志真、もう大丈夫?」
落ち着いたちょうどその時に降ってきた問いかけに、こくりと頷く。
“ならよかった”、と彼は言って、それから俺の手を弱い力で剥がした。
「えっ…?」
どうして離れていってしまうのだろう。
ずっと温もりに埋め尽くされていた場所に吹き込んだ風が寂しくて、彼を仰いだ。
目の前の彼は苦笑いと嬉し笑いを半分ずつ混ぜたような表情で微笑む。
「そんな顔しないで。離れるわけじゃないよ。中にしちゃったから、お風呂で洗わないと。…ほら、僕の首に腕を回して…そう、上手。離さないでね。」
「えっ…?」
されるがままに腕に手を回すと、身体が宙に浮いた。
そのまま明かりをつけられて、慌てて四肢をばたつかせる。
「待って、自分でできます!恥ずかしいです!!」
つまり、明るい場所で裸のまま彼に抱き上げられている状態だ。
久しぶりの夜なのにこれはさすがにハードルが高い。
ちなみに彼はしっかりと服を着ている。
そういえば、そもそも繋がっている時すら必要最低限しか露出していなかった。
「だーめ。落ち着いて。危ないから暴れない。初めての時そう言って転んだでしょう?もう1人にはしない。」
必死に拒む俺に、奏多さんが少し強めのglareを放ちながら言う。
…それはずるいよ、奏多さん。
優しい理由と大好きな人のglareのせいで、あっけなくされるがままになってしまう俺だった。
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