ピロートークはバスタブの中で

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奏多さんはバスタブの淵に座る体勢になるようにそっと俺を降ろすと、衣服を纏ったままシャワーに手をかけた。 「あの、濡れますよ…?」 確かに洗う必要があるのは俺だけかもしれないけれど、この状態のまま奏多さんが蛇口を捻ったら服ごとずぶ濡れになってしまう。 そうしたら彼が風邪を引いてしまうかもしれないし、…それに、実は今の俺だけが裸の状態が結構恥ずかしい。 「いいんだ。」 でも、彼はそう言って少し決まり悪そうに微笑むと、あとは何も言わずに俺の頭を撫でてくれた。 なんとなく気にかかる表情と物言いだ。このまま放っておいてはいけないような、そんな気がする。 「でも、濡れて風邪ひいたらどうするんですか?もしくは脱ぎたくない理由でもあるんですか?」 「……本当に、いいんだよ。濡れたって少しも気にしない。」 その唇は、何かをはぐらかすように緩く笑んでいて。 言わずに隠していることがあるのだとすぐにわかった。 嘘をつけない代わりに沈黙を選ぶから、ある意味で彼はわかりやすい。 「俺が気にします。というか、何を気にしてるんですか?もう2度と離さないと約束したのなら、隠し事はなしです。」 これからを考えるのならば、何も抱え込まないで。……全部話して、幸せに笑っていて。 漆黒の瞳に必死で訴える。 彼はしばらくじっと俺の瞳を見つめていたけれど、やがて観念したように唇を開いた。 「志真には全部お見通しだね。本当は、背中の傷を見せたくないだけなんだ。」 「えっ、どうしてですか?」 予想外の理由に驚いて素っ頓狂な声が漏れる。 だって、俺にその傷を隠す理由はないでしょう…? 「正直醜いし……それに、志真はなんとなく嫌な思いをするんじゃないかなって。」 「俺のために頑張ってくれた印なのに、ですか…?」 「えっ…?」 「以前見た時は、痛々しいな、何があったんだろうなって考えて泣いてしまいました。でも、理由を知った今ならただその傷ごと好きだなっ……て…奏多さん……?」 目を開いたまま、固まったまま、彼の白い頬を綺麗な涙が伝っていた。 けれど、悲しい涙じゃない。 その瞳は柔らかに細められていて、口元には諦めでも苦しみでもない幸せが溢れたような笑みが浮かんでいる。
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