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ちらりと奏多さんに目配せをしてから、ドアノブに手をかける。
「おはようございます。」
挨拶とともに中に入れば、すでに俺と奏多さん以外の社員全員が揃っていた。
雅希や陽斗はまだ来る時間じゃないし、椎名さんもいつももう少し後に来るのに、どうしてだろう。
疑問が脳裏に浮かぶと同時に、椎名さんが俺の方に小走りで寄ってきた。
彼女は何かを探すように俺の身体を見回すと、両手で口元を押さえて大きく瞬きをする。
「椎名さん、なにか…?」
何か俺の顔についているのだろうか。
…それにしたってこの反応は不自然だけれど。
「よ、」
口を押さえたまま彼女が何か言おうとしているが、声がくぐもっていて頭の文字しか聞こえない。
「…よ…?」
よくも部長のパートナーの座を奪ったな、とか…?
そんなことを言われたら、俺は謝ることしかできない。
「よかったです!!collar見て安心しました。無事話し合ってパートナーに戻れたんですね、先輩。おめでとうございます!!!」
「えっと…… 」
「だってもう、昨日は先輩ずっと死にそうな顔してたから、心配だったんですよ。…実は、みんな先輩のことが心配で、早く来たんです。」
言いながら、彼女は満面の笑みを浮かべていて。
予想外の祝福に驚いた俺は、そのまましばらく言葉を失ってしまった。
…あれ、でも待て。みんなって、どういうことだ?みんなは知らないはずじゃ……。
「志真、おめでと。でも、志真が元々所長と付き合ってたなんて、椎名さんに聞いて、おれマジでびっくりした。教えてくれたらめちゃくちゃ面白かったのに!!」
「そうですよぅ!先輩、全然そういう素振り見せなかったから、全然気づかなかったですぅー!!」
雅希と松下さんが唇を尖らせながら言ったことで、やっと状況を理解した。
椎名さんがみんなに明かしてしまったらしい。
……まあでも、それもいいか。
俺はこの人たちに奏多さんとの関係を必死に隠して、奏多さんは俺に過去を隠すためにこの人たちに協力を仰いで。
きっと迷惑もかけたし、不器用にすれ違ったせいでたくさんもつれてしまったけれど、それでも今、この人たちは俺たちの関係を祝福してくれている。
とても幸せなことだ。
「ありがとう。」
優しい仲間たちに心から感謝の言葉を述べたら、“水臭いですよ”、って言いながらみんな嬉しそうに笑ってくれた。
その後もみんなからのおめでとうが止むことなく俺の鼓膜を揺らし続けて。
世界の優しさに、泣きそうになった1日だった。
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