1. 俺たちの世界

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1. 俺たちの世界

朝が憂鬱だ。特に自慰をした次の日の朝は。 無機質なアラーム音によって幸せな夢から引き摺り出されたが最後、それからはもう絶望しか待っていない。 優しく包み込んでくれていたシルクリネンの生地に別れを告げ、重たい上半身をゆっくりと持ち上げれば、広いベッドの上に1人という現実に嫌でも襲われる。 絶望を引きずったまま申し訳程度の朝食を詰め込み、着替えを済ませると、出社前のこの忙しい時間に玄関のチャイムが鳴った。 いったい、こんな時間に誰だろう。 「はい。」 インターホンをつけた途端、よく知る人物のドアップの泣き顔が映し出され、ひどく驚く。会社の同僚だ。彼も俺と同じで出社前だというのに、なにがあったのだろうか。 「しまーーーーっ!! 」 慌ててドアを開けると、くりくりの瞳いっぱいに涙を浮かべた彼がいきなり強く抱きついてきた。 「陽斗(はると)、どうした?」 こうなったら朝のラッシュに巻き込まれたくないとか言っている場合ではない。 ひとまず中に入り、背中を優しく叩きながら彼が落ち着くのを待つ。 しばらくして落ち着いた彼は、俺のスーツを涙で濡らしてしまったことを詫びてから、理由を語り始めた。 「…あのね、昨日プレイでシャツ破かれちゃって、着て行くシャツがないの。まだお店開いてないし、志真の貸して欲しいなって。。。」 「えっ?替えは?」 「昨日の人、ホテルが空いてなくて家に呼んだんだけど、3枚とも全部破られちゃって、、、」 言われてから陽斗の服装を見れば、スーツのジャケットの中に柄の入ったTシャツというなんともチグハグな格好をしているし、Tシャツの隙間からは鞭で打たれたような傷跡がのぞいている。想像以上に深刻な事態だったらしい。 「…ちょっと待ってて。俺の少し大きいと思うけど、いい?」 「うん、ありがとう、、、。朝から、ごめんね。」 泣きそうな表情の陽斗に謝られ、悪いのは陽斗ではないのにどうして彼が謝らなければならないのだろう、と理不尽さを覚えた。 神様はどうして、この世界に第2性なんて作ったんだろう。 そんなものがなかったら、日々の中でもう少し笑うことができただろうに。 陽斗も、…俺も。
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