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この世界の20%は、男女という性別に加え、Dom、Subという第二性を持っている。
簡単に言ってしまえばDomはサディスト、Subはマゾヒストだが、第2性を持つ者は互いに、プレイと呼ばれる“DomがSubに命令し、Subはそれに従う行為”を行わないと、過度に凶暴的になったり体調を崩したりする。
ちなみに先程陽斗が言っていたプレイというのは、このことだ。
「これで涙拭いて。シャツはもう少し待ってね。」
シャツのついでに持ってきたタオルを渡すと、陽斗はお礼を言いながらぐしぐしと涙を拭う。
そんなに強くしたら痛いだろうと思うけれど、こんな涙いち早く拭ってしまいたいと望む彼の気持ちもわかるから、何も言えない。
彼が涙を拭っているうちに俺はアイロンをつけ、台にシャツを広げた。
「他人の家で他人のものダメにするとか、どんな神経してるんだろうね。過剰な暴力とかは振るわれてない?」
「えへへ、glareで動けなくさせられて、その間に、やられちゃった…。でも、暴力はなかったよ!ちょっと鞭でお仕置きされたくらい。」
言いながら、陽斗は口元に無理やり笑みを浮かべる。
持ち上がった口角が小刻みに震えていて、ひどく痛々しい。
glareは、DomがSubを従えるために放つ目力のようなものだ。
Subは、Domにglareを放ちながら命令をされると、本能的に従ってしまう。
だから、glareを放ちながら動くなと命令されれば動けないし、黙れと言われれば喋れない。
勿論そのことは世間的に問題視されており、glareを通して相手の嫌がる行為をすることは禁止されているが、無くならないのもまた現状である。
いじめと同じだ。どんなに悪いことだと言われていても、明確な罰がなければ効果などない。
なかでもglareが効きやすい体質の陽斗は、よくこうやって被害を受けている。知り合ってから一年と少しだが、数ヶ月に一度の頻度で彼が泣くのを見ている気がする。
ちなみに、相手のglareが効かなければ相手の命令に無理矢理従わされることはない。
「病院は?警察には言った?」
「このくらいは慣れてるから。それに、家に入れたボクも悪かったし!!」
そんな表情で慣れているなんて言わないでほしい。
でも、陽斗もこれ以上触れないで欲しそうにしているから、そろそろ話題を変えようか。
「…これで大丈夫かな。着てみて。」
言いながら、アイロンがけの終わったシャツを陽斗に渡す。
「ごめん、こんなことまでしてもらっちゃって…。」
「陽斗は悪くないんだから気にしないで。それより急ごう。遅刻しそう。」
「わっ、たいへん!!」
慌ててシャツを着る陽斗を横目に、俺もそろそろ不調をきたさないために誰かにプレイをしてもらわなければならないな、と思う。
…好きな人以外とのプレイだなんて、本当は、したくもないのに。
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