1. 俺たちの世界

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「志真さん、はる君。2人揃って、どうしたのかしら?何かあったの?」 「お二人ともきてくれてよかったですぅー!今日は目の保養なしでお仕事になるかもって、栗村さんと一緒に泣くところでしたよぉー!!」 陽斗(はると)と俺が息を切らせて営業所に駆け込むと、事務の栗村さんと後輩の松下さんが涙目でこちらに駆け寄ってきた。 「2人とも、おれがいるじゃないですかぁー…!!ほら、顔とか最高でしょ!?」 その様子を見た同期の雅希(まさき)がぬっと割り込んできて、拗ねた口調で女性2人に抗議する。 「…雅希先輩の顔面偏差値は素晴らしいと思います。」 「そうよね、松下ちゃん。雅希君は志真さんを見習ってもう少し大人になるといいと思うわ。もしくは、はる君並みに可愛くなるか……それは無理か。」 「なんで志真はさん付けて俺は君付けなんですか!?同期なのに!!こんなに格好いいのに!!」 「「…… 」」 女性陣の沈黙が怖い。 がっくりと項垂れる雅希は可哀想だが、女性陣の言うことにも大いに納得できるので俺は黙って席につきメールをチェックすることにした。 雅希はたしかに格好いい。胸まで伸びた茶髪をハーフアップにしているが、男前ではっきりした顔立ちにそれがとてもよく似合っていて、口を開かなければクールでミステリアスなイケメンに見える。 しかし口を開いたが最後、数々のナルシスト発言で周りを困惑させてしまうのだ。 俺はそれも雅希の面白くていいところだと思うが、捉え方は人それぞれ。少なくとも女性受けはあまりよろしくない。 今も、メールの返信をしながら後輩の松下さんに茶々を入れていて、あからさまに迷惑そうな顔をされている。 そんなこんなで今来ているメールの返信を全て終えた頃、ガチャリとドアが空いた。 「みんなお疲れ様!!ちょっと連絡があるから集まってくれる??」 入ってきたのは所長で、何やら嬉しそうな表情を浮かべ召集をかける。 召集とは言っても、規模の小さい営業所なので集まるのは事務の栗村さんと所長を含めて6人だ。 「まずは、先月、土浦営業所の月間売り上げが歴代トップでした。みんなよく頑張ったね、おめでとう!!」 所長の言葉に、わっ、と拍手が巻き起こる。 そして一旦拍手が収まった後、もう一度、今度は少し真剣な顔をして所長が口を開いた。 「それから、ぼくは来週から本社勤務になるから、新しい所長が来ます。今週の金曜日に挨拶に来るみたいだから、よろしくね。じゃあ、今週も頑張っていこう!!」 先程の明るい雰囲気はどこへ行ったのか、この場にいた全員がどう反応していいのか分からずにその場に硬直してしまう。 陽斗なんて、驚きすぎたのか舐めていた棒飴をポトリと床に落としている。 「じゃ、じゃあぼくはちょっと電話してくるから、みんな頑張って!!」 所長が室外へ出た途端、一斉にため息がもれた。 今回はあまりに衝撃的だったが、所長は普段からこういった爆弾発言をなんの前触れもなく落としていくので、みんなそこそこ慣れている。 「…はる君、新しい飴いる?」 「あっ、栗村さんずるいっ!!はる先輩、私が持ってきた飴の方が美味しいですよ!!」 現実逃避を始めた女性陣が陽斗を餌付けし始めるのも、通常運転だ。 太陽おもちゃ工房の土浦営業所は、今日もそれなりに平和である。
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