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第2話 夕日が時をとめる
お母さん
お母さんってどうしたの
野原で横になって
ああ
留美ちゃんか
佐々木さん
元気がないよ
いや
頭が痛いんだ
私も横になろう
いいでしょ
ああ
佐々木さん
お母さんが恋しいの
違うよ
たまたま
呼んだだけだよ
俺は独り言が多いからさ
そうなの
ああ
佐々木さん
あっちを向いて寝てみて
どうして
いいから
ああ
ほら、気持ちいいでしょ
ありがとう
肩をもんでくれているんだね
俺もさ
母の肩をよくもんでいたよ
肩こりだったからさ
そうなの
ああ
もういいよ
手がつかれるだろ
佐々木さん
泣いているの
いや
気のせいだよ
だって
泣いている音が聞こえるよ
だから
気のせいだよ
じゃあ
もう少し
揉んであげる
もういいよ
いいの
それとも
私がそばにいるのが嫌なの
そんなことはないよ
だったらいいでしょ
そうだ
じゃあ
私が反対になるから
佐々木さんが揉んで
まだ君は若いだろ
いいの揉んでほしいの
佐々木さんのお母さんになってあげる
もういいよ
佐々木さん
怒ったの
小百合さん
上杉さん
達夫でいいよ
じゃあ達夫さん
そこで何をしていたの
ここの野原から見える夕日はきれいなの
そうか
本当だね
小百合さんもきれいかな
からかわないでください
いや
本当だよ
僕は18歳だから
あまり小百合さんと歳はかわらないよ
そうなんですね
上杉さんは恋人はいらっしゃるのですか
いや
そうなんですか
ああ
僕は女性と付き合いをしたことがないんだ
そうなんですか
ああ
恥ずかしいな
こんなことを言うのも
小百合さんは
私も男性の方とお付き合いはしたことはありません
そうか
僕じゃ駄目かな
帰ります
小百合さん
待って
いえ
僕の命令でも駄目なのかな
命令なら仕方ありません
そこに立っていて
こっちを向かなくていいから
どうしてですか
いいから
そこでじっとしていて
はい
でも、どうしてですか
いいから
駄目です
後ろから手を回したら
恥ずかしいです
初めてなんだ女性を抱きしめたのは
駄目です
僕が嫌なのかな
そういうわけではありません
夕日がきれいだね
はい
小百合さんの髪が夕日に染まっているよ
恥ずかしいことを言わないでください
そんなことを言うと
僕がはずかしいじゃないか
ごめんなさい
きれいな髪の香りがするよ
それはきっと風のせいです
風のかおりです
小百合さん
こっちを向いてくれないかな
駄目です
帰ります
小百合さん
おはようございます
おはようございます
あれ、今日は
おはようじゃないのか
なんとなくです
そうか
昨日は肩をもんでくれて
ありがとう
どうして、私の肩を揉んでくれなかったのですか
私に魅力がないのですか
怒っているのかな
はい
ああ、ごめんな
恥ずかしかったのかな
佐々木さんも恥ずかしがり屋さんなんですね
どうだろう
佐々木さん
私のことをどう思っていますか
可愛いですか
そうでもないですか
いや、可愛いよ
良かった
それなら許してあげる
じゃあ、今、肩を揉んでください
駄目よ留美
いいの
小百合
揉んでくれないのですか
ああ、わかったよ
こうかな
そうです
そこから下は駄目ですよ
ああ、わかっているよ
でも
佐々木さんならいいですよ
駄目だよ
恥ずかしがり屋さんなんですね
佐々木さんは
からかうなよ
ふふふ
私に魅力がないのですか
いや、そういうわけでは
やっぱり恥ずかしがり屋さん
ふふふ
僕は小百合さんから揉んでもらおうかな
いいかな
はい
そこから下は駄目だよ
いえ、揉みませんから
ははははは
小百合
なに
佐々木さんとお別れする日が来るのかな
駄目よ
そんなことを言ったら
御国のためにって
留美が言ったでしょ
そうだけど
なんだか
悲しくなっちゃった
そんなこと言わないで
小百合は上杉さんのことをどう思っているの
なんとも思っていないよ
留美は佐々木さんのことはどうなの
私は佐々木さんが大好きよ
でも、お付き合いしたら駄目よ
そうなのかな
留美
うううう
留美
おはようございます
あれ
留美ちゃん
元気がないよ
挨拶もないし
ごめんなさい
上杉さん
昨日寝てなくて眠いの
そうか
佐々木少尉
留美ちゃんは返しましょうか
佐々木少尉
佐々木少尉
どうしたんですか
俺も寝不足だよ
二人とも元気がないのか
上杉さん
どうしたの
小百合さん
ちょっと外で話しませんか
ああ、いいよ
どうしたの
どうも、留美が最近様子がおかしいの
そうか、佐々木少尉も様子がおかしんだよな
僕の様子はおかしくないかな
どうして、そのようなことを聞くのですか
いや
私の様子はおかしくないですか
僕の方がおかしいよ
そうですか
それだけですか
達夫さん
今日は前を向きます
夕日がきれいだね
それだけですか
私のことをどう思っていますか
夕日がきれいだね
僕の背中に乗って
どうしてですか
いいから
ほら
少しこうして歩こう
何か言ってください
恥ずかしいことを言わせるなよ
それが僕の答えだよ
達夫さん
どうして、私の方を向いて言ってくれないのですか
夕日がきれいだね
達夫さん
夕日がきれいだね
もうここで降ろしてください
いや、小百合さんの家まで送っていくよ
そんな恥ずかしいことはやめて下さい
いや
送っていくよ
駄目です
夕日がきれいだね
小百合さんがきれいだね
これが僕の気持ちだよ
夕日と同じ色だったよ
小百合さんの唇は
達夫さん
小百合さんはきれいだね
夕日よりも
きれいだよ
もう、恥ずかしいから
離してください
このまま
時が止まってしまえばいいのにな
いつか
達夫さん
それ以上言わないでください
それ以上言わないでください
お願いします
仕方ないじゃないか
だから
言わないでください
私も明日は様子がおかしいと思います
僕もだよ
今日だけは時を止めてあげるよ
はい
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