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本題に移ろうと頭を切り替えて、口を開いた。
「あんたが表に出てきたということは、戻るつもり?」
「ああ」
「今更?」
「そうだ」
「それなら情報をひとつあげる」
リンの目が薄く光った。
「あんたの息子が、今まさに危機だ」
「……息子?」
しばらくの沈黙のあと、そうつぶやいた欧米人の青い目は戸惑いを隠さない。リンの片眉が軽く動く。
「知らない?」
「知らないな」
「そう。あんたにとてもよく似てるよ」
小太りの男の柔らかい声は、昔と変わらず無感情――だったが。
「彼女が気の毒だね。こんな男に孕まされて」
侮蔑を含んだ言葉と視線に、自然とリンの胸ぐらを掴む。白い下膨れの顔に顔を寄せ、ささやいた。
「“能力増幅者”一斉拘束を避けて真っ先に国外逃亡したお前も俺と同類だ。違うか」
「……」
殺気に満ちた、絞り出すようなこの声を、かつて聞いたことがなかった。
相手のごつい手から力が抜け、リンはようやく踵に地面を感じた。ふうと荒い息をつく欧米人は「俺に息子とはな」と小さくつぶやいて、
「教えてくれ。そいつの名は?」
「イブキだ。サエキ=イブキ」
「サエキ……」
じきに欧米人は困り果てた様子で空を仰いだ。
「よりにもよって、彼奴が絡んでるのか」
「そのひとのことなら調べがついてる」
リンは愉快そうに口許を緩めた。
「あんたの防大同期で親友、いや、それ以上の」
「もういい」欧米人は不機嫌そうに唸り、
「そいつの身が危ないって、どういう理由だ」
一瞬黙って、答えた。
「国家機密――通称“七階層事案”に触れた人間を助けたからだよ」
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