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「こどもや赤ちゃんのお迎えは悲しいよね」
目の表面に水分を溜め、ミカは呟く。どうやら、ミカの仕事相手は赤ちゃんのようだった。うんうん、と頷いたのはリエだ。
「わかるよー。何でこんなに短い人生でお迎えしなきゃいけないんだって思っちゃうよね」
「ウチの社長、鬼畜だよね」
「しっ!不敬だよ!」
ミカの言葉に、リエが人差し指を立てる。二人の働く職場では社長の言葉は絶対であり、悪口はご法度だ。ミカはあわてて口をつぐむ。二人がいるのは職場の休憩室だ。社長の言葉が絶対だとする社長信者の誰かが耳をそばだてていても不思議ではない。
「おつかれーっす」
仕事を終えたエルが帰ってきた。彼女は眉間に皺を寄せながら、ドカッと椅子に腰かけた。彼女は持っていた水を飲み干した。
「っぷはー!ちょっと、二人とも聞いてよ!」
怒っている時のエルの話はとても長くなる。エルの長話を嫌というほど知っている二人は覚悟を決め、彼女の言葉に耳を傾けることにした。仕事中はとても真面目なエルだから、鬱憤が溜まっているのだろう。愚痴を言い合うのもストレス発散の一つだ。
「どうしたの、エルちゃん?」
「今日のお迎え、爺さんだったんだけどさ。何で男って何歳になっても盛ってるんだろうね」
「あー」
二人は合点がいった。職業柄、男からセクハラを受けることが多いのだ。ミカやリエもセクハラを受けることはあるが、美人なエルは二人の比ではないのだろう。二人はエルに同情する。
「エルちゃんは美人さんだもんね……」
「ご愁傷さま」
「そりゃあ私は美人だけどさ!こっちは仕事でやってんのよ」
「美人なのは認めるんだ」
「だね」
「勘違いしてる男、多すぎなのよ」
「まあね」
愚痴に花を咲かせる三人。暫くして、休憩室に音楽が鳴り響いた。休憩の終了を知らせる音楽だ。清らかな音楽であるが、仕事の再開を思うと気分が重くなる三人であった。彼女達は重い腰を上げる。
「さて、行きますか」
「次は誰のお迎えかなあ」
「男じゃないといいんだけど……」
三人は白い羽を羽ばたかせて下界へと降りて行った。
Fin.
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