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「今日はうちに集合です!」
ホームルームが終わり、後ろから肩を叩かれた。続いてくるっと廊下側の列を向いて「ナナもね!」と口角を上げる。
「私もいいの?」
もちろん、というユカコのはりきった即答に、切り揃えられた前髪の下で細めの瞳がふにゃりと垂れる。
「じゃあ、お母さんに聞いてみるね」
テスト明けや始業式といった普段より早く終わる日は必ずどちらかの家に行って話をするのが定番だ。話をする、というよりはユカコが一方的に恋バナをするんだけど。
一度家に帰るというナナと交差点で別れて、コンビニで紙パックを三つ買った。そのコンビニ沿いの小さな商店街の真ん中辺り、カランコロンとベルが鳴るドアをユカコが開けて一階の美容院に入っていく。さわやかなアロマの香りと染料の匂いがつんと鼻を突いた。白が基調のシンプルで洗練された店内は、古い美容院を二年前にリフォームしたという。「何したって来るヒトは変わらないのよ」とユカコはぼやいていたが、ちょうどシャンプー中のお客さんは若そうだ。
いらっしゃい、とシャンプー台の向こうでユカコママにアイコンタクトされたので声を出さずに会釈する。ユカコママはひとつにまとめた髪の後れ毛を軽く揺らした。通路を抜けて奥へ行けばユカコの家、開け放ったドアから二階に上がる階段が見える。気を遣うのはどうやら他人だけらしく、ユカコは大きな声で「おかっぱの子が後から来るから」と母親に伝えてさっさと上へ行った。後ろから「ちょっとユカコ」と小声で呼びとめることもなく母親は「すみませんね、うちのがうるさくして」と客にわびていた。
「ミーヤンはやく」
「あ、うん」
なんとなくユカコの分も靴を揃える。いえ、と返事をしたお客さんの声はやはり若い女性のものだった。
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