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三十分くらいたった頃、「あの」と蚊の鳴くような声が聞こえた。
「ナナ! 入って入って!」
私よりも先に気付いたユカコが手招きをする。両親が仕事中は自由に使っていいと言われているのでリビングのローテーブルでだべっていたところだ。
「お邪魔、します」
高くて落ち着いた声が少し震えている。わざわざ制服から着替えてきたナナはジーンズにトレーナーといった中学生らしい服装だ。
「ねね、ナナは気になる男子いないの?」
引っぱるように隣に座らせてナナの腕にしがみつく。ユカコは誰にでも距離が近い。物理的に、だけど。いつもは一人語りでも、今日は新しいナナがいる。
「気になる男子かあ」
ナナは引かれた腕をそのままに視線を浮かべて間を置く。うんうん、とユカコは相づちをうつ。
「今はいないけど去年実は……」
「あら! まあこんなにお菓子どうしたの?」
「お母さん!」
ユカコママが仕事の合間に休憩に来たようだ。いいところだったのに、とぶっすりそっぽを向いたユカコの代わりに「ナナのお母さんが皆でどうぞってくれたんです」と答える。紙パックしか買わなかったはずなのにスナック菓子が大量に増えたのは「マ、お母さんが持って行けって」とナナが抱えてきたからだ。別にママでもいいのに。
「やだあ、気を遣わなくていいのよ? これからは手ぶらできてね」
ナナは「はい」と恥ずかしそうに会釈した。
「あ、そうだ、髪色いいなって思って見てました」
「本当? ミーちゃんはよく気付いてくれて嬉しいわ」
ユカコママはほどいた髪をクルクルと指に絡める。
「もーお母さん、恥ずかしいからやめて。ミーヤンも引き留めないでよ」
ついでに私までにらまれる。ごめん、と肩をすくめ「じゃあゆっくりしてってね」とお店へ降りていった。
「で、実は、なに?」
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