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「三谷さんの」
ミーヤンでいいよ、と言う。
「ミーヤンの右斜め前にいる――」
「あ、わかった。ウルフカット」
「ウルフカットお?」
校則違反じゃん、とユカコが続ける。去年の夏休みに勝手に前髪ブリーチして親まで呼ばれたのはどこの誰ですかって喉まで来たけど、なんとか抑える。
「えー、なんで別れちゃったの? 狼さんだった?」
「ちょっとユカコ」
がうーと両手を爪に見立てて襲うフリをしたユカコを嗜める。だけどナナは楽しそうに綻んでのり塩のポテトチップスに手を伸ばす。
「大丈夫だよミーヤン」
ちびちびと咀嚼しながら「冷たい男だったの」と顔の前で手を振った。
「クールってこと?」
私は聞き返す。
「初めはそう思ったんだけどね」
答えながらまたポテトチップスをとり、ちびちび咀嚼する。唇の動きが何かの生き物みたいで、その何かが思い出せなくてよく見つめてしまう。
「ハグだけはだめだって突き放されちゃった」
「ハグって……」
こう? とユカコが抱きつく。
「うん」
「なんでだろう」
「わからん」
ナナはのり塩がたっぷりついた人差し指と親指をペロリと舌で舐めとる。両唇の間から覗いたそれは熟れたイチゴのように真っ赤でいけないものを見てしまったような気持ちになった。
「照れてたのかもね」
ユカコが言うと、ナナはわざとらしく首をかしげた。
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