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ニワノくんが庭野くんであるとわかったのは急なことだった。
「三谷さん、今日委員会。16時に視聴覚室で」
ぶっきらぼうな言い方に起こされて、私は「はあい」と返事をする。え、委員会ってなんのこと?
「待って」
慌てて声の主の裾を掴み、損ねてブレザーからはみ出たクリーム色のセーターをスカッと擦る。
「なに?」
「あの、あ!」
ウルフカットだ。なんだっけ、寝起き過ぎて頭が回らない。ウルフカット、委員会で、ああ、確か。
「ニワノくん?」
「そうだけど。ホームルーム聞いてなかった?」
「ごめん、寝てた」
だからか、とニワノくんはため息をつく。
「俺と三谷さんは放送委員会」
「放送……」
「そういうことだから、じゃ」
ニワノくんはくるりと引き返す。
「え、ちょっと、わっ」
「ねーむりっひめっ」
詳しく聞こうとした瞬間、ユカコが後ろから抱きついてきた。
「なになに、彼。告白?」
「この恋愛脳め、違うよ。委員会だってさ」
「ああ、放送か。人気なくて、ナナが推薦してたよ」
「はあ?」
廊下側に座って読書するナナを見遣る。
「三谷さんは声がきれいなので、って」
「絶対うそだわ」
視線に気づいたナナが駆け寄ってきて手を合わせる。
「ごめんなさい! 放送委員会、女子が全然決まらなくて。くじ引きになりそうだったし、もし私になったら気まずいって焦って、つい……」
ユカコはうんうんと頷いている。昨日の今日でニワノくんと話すなんてできすぎているけど同じクラスだしおかしくはない、か。
「気にしてないよ。寝てた私が悪いんだし」
「そうそう! あほ面で眠ってるからつい、ね! いたたっ」
「誰があほ面だってえ?」
むにゅっと頬をつまむ。ナナはふふふと笑って「楽しい」と呟いた。四月より短めになった夏服のスカートが揺れる。楽しみ、と聞こえたけどきっと気のせいだろう。気のせい、だよね。
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