仮面

10/25
前へ
/289ページ
次へ
「いらっしゃい」 扉が開くと向こうに居たのは、白いシャツを羽織ってグレーのトップスとデニム姿の浅井さんだった。 髪はいつものオールバックではなくて、髪はサラサラとしたストレートヘアだった。 「今日は」 「どうぞ、上がって」 「お邪魔します」 私が畏まってそう言うと、浅井さんが小さく笑った。 足元は大理石なのか、ヒールで踏むとカツンと音がした。私は足元を気にして下を向いた。 それから、ヒールを音が立たないようにそっと脱いで揃えた。 「礼儀正しいですね」 「はい、母に靴は揃えなさいって」 「へぇ」 私が恥ずかしそうにそう言いながら立ち上がると、彼は近寄って来てぎゅっと抱きしめた。 そして、耳元でキュンとするような切なくて甘ったるい声でこう呟いた。 「会えなくて寂しかったんですからね」 「わ、私もですよ」 私がそう返すと、浅井さんは両腕をぎゅっと締め付けるようにしてもう一度きつく抱きしめた。首筋からフワッと彼の匂いがした。 人の匂いって好き嫌い分かれるところがあるけど、彼は爽やかでどこか安心する匂いだった。 目の奥がなんだかツンとしてきて、涙が出そうになった。そう思っていたら、浅井さんがパッと私を放した。 「すみません、いきなり抱きついてしまって」 「いいえ、大丈夫です。あの、ケーキ買ってきたので良かったら一緒に食べませんか?」 私がそう言うと、彼は照れ臭そうに笑ってはいと答えた。 やばい、やばい!! 恋とか久しぶりだけど、油断しすぎてた。 今の笑顔は反則です、浅井さん!!
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2038人が本棚に入れています
本棚に追加