仮面

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部屋は3階だった。窓を開けると風がゆるく吹いていた。私はそこに、置かれていた履き物を借りてテラスに出た。 出るとすぐ木製のデスクと椅子が一つが置かれていた。何の植物かは分からないが、机の上に手の平サイズの植物も飾られていた。 浅井さんは休日ここで本でも読んでいるのだろうか。なんとなくそんなことを考えながら、景色の見える欄干の方へと歩みを進めた。 成城学園前と言えば、都内の有数の高級住宅地だ。緑が豊かな台地で低層マンションとはいえ、そこから眺められる街の景色は私が普段見ているそれとはまるで異なっていた。 一体こんなところに住めるなんて、どんな人生を歩めばそうなれるんだろう? 相変わらず私と浅井さんがあまりに別世界の人だという事実に打ちのめされてしまいそうになった。 しかし、風は気持ちいいし眺めもいいし、こんな部屋に足を踏み入れられただけでも随分ラッキーかも知れない。 私がうーんと前に腕を伸ばしてストレッチしていると、背後で物音がした。 「お茶淹れましたよ。どうします、外に運びますか?」 浅井さんが扉を開けて此方に尋ねてきた。 「あ、今行きます」 「いいですよ、外気持ち良さそうですし、椅子とってきますね。これ、置いておきます」 彼はそう言って穏やかに笑うと、運んできたティーカップ二つとお皿、ケーキを載せたトレーを机に置き部屋に戻った。 なんて贅沢な日曜日の午後なんだろう。 私も慌てて、自分もテーブルの方へと向かった。 テーブルに近づくと微かに紅茶の茶葉の香りが漂ってきた。
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