仮面

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折り畳み式の椅子を抱えた浅井さんが戻って来た。 「そっちの椅子使って下さい。俺こっち使います」 「ありがとうございます」 私は頭を下げると、椅子に腰掛けた。 案外座り心地が良くて、丈夫に作られていた。 「これ、どっち食べますか?」 浅井さんはケーキの箱を開けると無邪気にその中を眺めていた。 「どっちも美味しそうですよね。ティラミスとこっちは巨峰のタルトですか?」 「はい、これ近所で有名なケーキ屋さんのなんですけど、旬のフルーツのタルトが美味しいらしくて一度買ってみたかったんです。紅茶のティラミスもオススメと書かれていたので選んでみました。好きな方選んで下さい」 「へぇ、近くにそんなお店があるなんていいいですね」 どんなケーキにするのか悩んだけれど、浅井さんがこんなに喜んでくれるなんて意外だった。 「じゃあ、俺こっち貰います。後でお金払いますね」 「此方がお邪魔してるし、ケーキ代は大丈夫です」 私が断ると、浅井さんはそうですか、じゃあご馳走になりますと、巨峰のタルトを自分の皿へと移した。 それから、私が自分の分を取ろうとすると、彼は私のお皿をスッと手に取りティラミスを乗せて手渡してくれた。 「ありがとうございます」 「どういたしまして」 浅井さんはそう言うとニッコリと微笑んだ。 私はすごく幸せな気分でそれを受け取った。
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