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10分くらいのんびりと過ごした後、浅井さんが不意に呟くように言った。
「あの、あなたに話したいことがあるんです」
浅井さんはそれまでの明るい表情とは打って変わり、重い空気を纏っていた。
「どうされましたか?」
「実は息子が中学受験をすることになって…」
「そうなんですね…。大変そうですね」
「受験はともかく、受かったら一緒に住みたいと…」
浅井さんはそこで言葉を区切ると、ちょっと私の顔色を伺うような素振りを見せた。
そして、私の両手を握ると此方を食い入るように見つめて続けた。
「碧音と会って貰えませんか?」
「えっ?!」
「一度紹介しておくのも今後のためかなって」
私はいい返事が思いつかなかった。
亡くなった奥さんとのお子さん…
いやいや、付き合うにしてもまだ、そんなハードルの高い付き合いは…
私が困惑した様子で返事出来ずにいると、浅井さんが念押すようにたずねてきた。
「ダメですか?」
「いえ、ダメってわけじゃないですけど、息子さんがどう思うのかは分からないので、正直なところまだ早いかなって」
私が答えると、落胆した表情で今度は彼が黙ってしまった。
恋愛経験値の低い私がシングルファーザーの浅井さんと恋するのって、想像してる以上にハードルが高いことなのかも知れないと改めて実感した。
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