仮面

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私は名前を告げ終わらぬうちに、目をパッと瞑ってしまった。 浅井さんに口を塞がれてしまったから。 不意打ちじゃないにしろ、やっぱりキスする瞬間には身構えてしまう。 それから十数秒の間。私は固まっていた。 彼の熱や感触が唇から失われていくのを感じて、再び目を開けた。すると、浅井さんは元いた椅子に腰掛け満足そうに微笑んでいた。 なんか今日の浅井さんは随分積極的だな、私がそう思いながら、キュッと身を抱きしめると思わずくしゃみが出た。 「寒いですか?」 浅井さんが心配した様子で私を見つめていた。 「大丈夫です」 私はすぐに手を振り彼に返事を返したが、彼は首を小さく横に振ると言った。 「そろそろ中入りましょうか?俺もちょっと冷えてきました」 秋風とはいえ、若干冷気を含んだ風に少し身を冷やされてしまった私達は、テーブルを片付けると、部屋の中へと入った。 彼はキッチンに向かったが、私もついて行くことにした。 「俺洗うので、大丈夫ですよ」 「私が洗います。準備して貰ったし…」 「じゃあ、一緒にしますか?俺洗いますから、その布巾で拭いて貰えますか?」 浅井さんはそう言うと、シャツの袖を軽く捲り、布巾を手渡してくれた。 「はい」 私は笑顔でそれを受けとった。 でも、しばらくして、洗い物をする浅井さんの横顔を見ているうちに、なんとも言えない不安が蘇ってきた。 お皿を拭きながら悶々としていたが、その想いは喉元まで上がってきていた。 だから、私は、若干眠そうな顔で食器を洗っていた浅井さんに、ついに気になっていたことをぶつけてみることにした。
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