仮面

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部屋の中は綺麗に片付けられていて、キングサイズのベッドが真ん中に据えられていた。 部屋の北側にはデスクとクローゼット南側の窓からはまだ、柔らかい日差しが差し込んできていた。 私は勢いのままに、宏光さんに手を引かれて部屋に入ると、彼は少しだけ握っていた手の力を緩めた。 「こんな形になってすみません」 「えっ?」 「ちゃんと雰囲気とか考えたかったんですけどね…」 浅井さんはそう言うと、私をベッド側へと追いやった。 そして、その勢いのままに腰をベッドに下ろすと、彼は私の身体を仰向けにして押し倒した。 「浅井さん…」 「大丈夫です。優しくしますから、嫌ですか?」 私は首を小さく横に振った。 でも、そういうことじゃなくって… 私は言葉が喉元まで出かけているのに、うまく伝える自信がなかった。 明るい部屋でいきなり、始められてしまうのは恥ずかしいとか、こんな昼間からしてしまうなんて非常識だとか、いくらでも伝えたいことはあるのに。 彼の切羽詰まった不安げな顔と、降り注ぐようなキスに応戦するだけで、それ以上頭は回らなくなってしまった。 もうアラサーだ。 処女でもない。その上、男性がスイッチが切り替わったかのように猟奇的な態度に変わる瞬間は、何度か経験していた。 また、浅井さんとの中途半端で煮え切らない関係性において、肉体的な接触を持つことが、互いの愛を確かめる上で、重要になってくるのも何となくわかってはいた。 でも、やっぱり心の準備もままならないまま、彼の前に、裸体を晒すのは勇気がいるのも事実だった。
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