仮面

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浅井さんは、私が抵抗する気力もなくなって、受け入れてしまっていたのをつまらなく思ったのだろうか? 覆い被さるようにしていた上体を起こすと、悩ましい顔つきでこう言った。 「今日、もし抱けなかったら、このまますれ違ってしまう気がするんです」 「はい」 「若菜…」 切実そうに私の髪を撫でた浅井さんは、いつもより遥かに憔悴しきっているようにも見えて、不安が更に増した。 「もし、あなたと俺の未来が前途多難でもこれだけは忘れないで下さい」 「何ですか?」 「俺にとってあなたが特別な人だということは変わりません。でも、不安になるようなことがあったら、思い出して欲しい」 浅井さんはそう言うと、私の右手をキュッと握り締めて耳元に顔を近づけた。 「もし、あなたが一緒に人生を、と考えて下さるなら、俺は浅井と縁を切ろうと思ってます」 私は驚きのあまり、浅井さんの顔をじっと睨みつけた。 「浅井は俺に縁談話を持ち掛けてきてまして、いずれ公表されるでしょうから、先にお話しておいた方がいいかと思って…」 浅井ホールディングス 私は、何も分かっていなかったのかも知れない 彼が生きている世界について 浅井さんが話す内容の殆どが耳には入ってこなかった。 でも、その縁談相手の名前だけははっきりと耳に残った。 神尾凛ーーーー
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