プロポーズ

12/19

2021人が本棚に入れています
本棚に追加
/295ページ
「選んだ理由ですか?」 彼はさっきまでの、ビジネスめいた軽い口調を改めると、そうと問い返して来た。 「はい。ないなら、やっぱりお引き受け出来ません」 彼は一度俯くと困惑したような表情を見せたが、髪を右手でかき上げると、意を決したように告げてきた。 「いいですよ。お話しましょう。あなたを選んだちゃんとした理由」 「お願いします」 私はちょっと緊張しながら前髪と姿勢を整えた。 「あの日、僕は結婚式に招待されていました。ですが、ご存知の通りお祝いの席にあまり相応しいとも思えず、夕方からの二次会だけ参加させて頂きました。実は、以前にもレンタル人材で恋人代わりを利用させて頂きましたが、準備期間に乏しく、また容姿の好悪やビジネスにおける話にも疎い方が多く使いづらかったんです。こういうのはなんですが水商売の女性であれば、それなりに扱いやすさはありますが、何せビジネスの場面ではマイナスに働くことも多く、個人的には利用するには難がありました」 「あぁ、はい」 「だからと言ってはなんですが、あの二次会でみんなでシャンパンで乾杯した後、先に帰ろうかと思っていたところ、ふとあなたが目に留まったんですよ。あなたはご友人と会話しながら、ピンチョスらしきものをつまんでいらっしゃいました。気になって観察していたところ髪の艶はなかったけれど、フォーマルやドレスの似合う背丈と佇まいをお持ちでしたので、直感で決めてしまいました。 本当はすぐにでも声を掛けたかったけれど、ご友人がいらっしゃったので、とりあえず近い席で様子を伺っていたところ、2人の会話を盗み聞きしてしまいました。 それで、あなたの事情を知り、可能なら是非この仕事引き受けて貰えないかと思ったんです。ですが、私の知人も多く参加してたので、あの場ではああ言うしかなかったというか…」 彼はそこまで説明すると一度話を止めた。 「それは容姿的なものが大事だったということですか?」 「まぁ、スタイルと容姿は好みかも知れません。個人的に雇う分多少は考えたいかなとは思いました」
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2021人が本棚に入れています
本棚に追加