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「浅井には後継者がいるの。ねぇ、あなたはその運命を背負う覚悟があるの?」
凛さんはそう言うと、萎縮してしまって身を縮こまらせた私を更になじった。
宏光さんはそんな私達を黙って見ているだけだった。
「私だって、無理に2人の仲を裂きたいわけじゃない。でも、今はそんなこと言ってられない」
「どうしてですか?」
「浅井長次郎は老い先長くはないからよ。だから、早めに次の当主を決める必要があるの」
私は事情はよく飲み込めなかったものの、あの一族の後継者が不在になることは、日本の財界にとっては大きなことになるのは想像がついた。
浅井宏光との結婚には、今はもう恋愛という自由より、ビジネス界の重鎮となる財閥の当主としての役割が望まれてしまうことも。
「宏光さん、宏光さんはどう思うんですか?!」
私が彼の肩に掴みかかると、彼は美しい顔を歪めて私に強く言い放った。
「話合いは今から本邸でします。だから、詳しく話すことはありません。でも、俺は貴方を妻にするつもりです。その意思は変えるつもりはありません」
宏光さんの言葉で、また凛さんの表情が一気に闘争心むき出しのそれに変わった。
それを目の当たりにし、凍りついた私が震えていると、宏光さんは優しく抱きしめてくれた。
そして、不敵に笑うと甘く私に口付けてから、凛さんに再び言い放った。
「俺は彼女を手放すつもりはないからね」
凛さんが唇を噛み締めると、また一段階嫉妬か、激情か表情が険しくなった。
私は、少し以前より頼もしくなった宏光さんにときめきを感じながら、あの日を思いだした。
2人の未来についてーーーー
語った日のことを
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