告白

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「これ、覚えてますか?」 浅井さんはそういうと、一枚の写真を差し出して見せてくれた。 私の家だろうか?母と小さな私と真ん中に、色白の大人しそうな少年が控えめな笑顔で写っといた。 写真の手前にはケーキとご馳走があった。 「俺、このとき初めてケーキ食べたんですよ。生クリームとかも見たことなくて、イチゴとロウソクとご馳走まで俺のために用意して頂きました。あなたのご家族というか、お母さんが、退院祝いとしてやって下さったんですよ」 「そうだったんですね」 「嬉しかったんですよ。自分のためにケーキを用意してくれるとか、思い出を作ってくれるとか、なかなかうちには余裕なかったんで、本当いい一日でした」 宏光さんはさっきまでの険しかった表情をちょっと緩めた。 宏光さんは、その後、父親が何者かに襲われてしまって養育不可能なために、受け入れ先の施設が決まるまで、うちの実家が預かっていたこと。そのときに、私と一緒におにぎりを作ったり、絵本を読んだりしたこと、かくれんぼしたことなどを教えてくれた。 彼は、今でもあの日々を忘れたことはなくて、大人になったら温かい家庭を築きたいと、職場で出会った優しかった初音さんと結婚したこと。 碧音くんが産まれたときは嬉しくて泣いてしまったこと。 いつも以上に饒舌に彼はいろんなことを語ってくれた。 きっと、想像する以上に辛いことも背負って生きてきたんだろうなと思う一方、色んな人に助けられて、愛されてきたのは宏光さんの真面目で努力家な人柄のおかげなんだろうとも感じた。 私はそんな感想を抱きながら、一通り彼の話を聞き終えると、思わず泣いてしまった。 彼を幸せにしてあげたい そんな気持ちが、言葉以上に目元から溢れた。
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