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あぁ、なんで分かってるのに
まだ諦め切れないんだろう
宏光さん、ううん浅井さんって、私が望むものは悉く持ってない気さえする
仲良くなれたら、キスしたら、抱き合えたら、お互いをよく知る仲になれば…
2人で乗り越えられるって
昔の純粋な私ならそんな夢物語も信じられたんだろうけど
もうお互いに、人生経験を重ねてしまった2人だ。
現実を知るからこそ、戸惑いや不安で
愛することから逃げ出したくなるーーー
私は我に返ると、溢れ出る涙を手で拭うことしか出来なかった。
「すみません。嘘をつかれる方が辛いのかと…」
「いいえ。今更、あなたにどんな過去があったって多少は慣れましたけど…やっぱり知りたくはなかったかな…」
宏光さんはそう答えた私に、心配するような表情を見せると、自分のハンカチを差し出して来た。
私はとりあえずそれを受け取ると、目元に押し当てた。
「あの家には血縁者の跡取りが必要だったんです。本当は…だから、長次郎の妾の娘である凛の結婚相手は俺に決められてた。勝手に」
宏光さんは憤慨した様子で口早にそう告げた。
「勝手に決められてたんですか?」
「はい」
宏光さんは即答した。
「俺が17で彼女が16の時、俺らは通学電車が同じで、たまたまその後学祭で交流することがあって、その縁で初めは付き合ってたんですけど、彼女には別の目的がありました」
「どんな目的ですか?」
宏光さんは一度言葉をためてから答えた。
「復讐です」
「えっ…」
「彼女は俺との子を浅井をいや、彼らを潰す切り札にしたかったんだろうと思います」
宏光さんはそう淡々と告げると、すっかり冷めてしまったコーヒーカップを手に取り、口にした。
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