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私達が案内されたのは、吹き抜けの明るい日差しが差し込んで来る広い部屋だった。
一体何畳あるのか直ぐには検討もつかないだだっ広い部屋の先のデスクに座って居たのは、滅多にお目にかかれない人物だった。
浅井財閥の会長で、この家の当主。
それに凛さんの父親で、宏光さんの養父でもある。
浅井長次郎さんだ。
両隣にいた二人は彼を見るなり、先程の使用人の女性と同じように深々と頭を下げ挨拶した。
「お父様、ご無沙汰しておりました」
「お父上、この度はお時間いただきありがとうございます」
部屋の私は二人の見様見真似で同じように頭を深々と下げた。
すると、向こうから挨拶が返って来た。
「凛、お久しぶりだね。最近の目覚ましい活躍、心より嬉しく思うよ」
「ありがとうございます。私こそ、お父様のお褒めに預かり心より光栄に思います」
凛さんは、私達に対するツンケンした態度と打って変わって、凄く幸せそうな笑顔で挨拶を返した。
「宏光、其方のお嬢さんは?」
「はい、彼女が佐々木若菜さんです。お話した通り、3カ月前に婚約した女性です」
宏光さんが私を先方に紹介すると、長次郎さんより先に凛さんが反応した。
「契約妻として、ビジネス上のパートナーだそうです。決して本妻の器ではございません」
「凛!!」
「本当のことじゃない?アラサーの派遣モデルが日本国を統べて来た財閥一族に相応しいとお考えですか?」
「そこまでおっしゃるなら、言わせて貰うが、その由緒ある財閥を引っ掻き回したお妾さんの娘が当主の全権を担う程、おかしな話がありますかね?」
私はあまりの剣のある毒毒しい意地の張り合いを前に、これがかつての恋人の会話だとは思えずに、耳を塞ぎたくなっていた。
すると、長次郎さんがそれを嗜めるように会話に割って来た。
「まぁまぁ互いに、言い分はあるだろうが、娘と息子がいがみ合うのは見るに耐えない。原因の一端は私にあるのが申し訳なくなるが、こうなった以上、凛と若菜さん。二人のどちらが妻に相応しいのか我々一族も見守らせていただくことにするよ」
「見守る?お父様、私は納得行きません。どうして私がこのような過酷な人生を国民的な女優として生きて来たかご存知でしょう?」
「お父上、凛は自分の利益と野心のためであり、決して我々のために貢献するような女性ではありませんよ」
元恋人同士とは思えないほどに、二人の空気は険悪だった。
私を挟んで火花を撒き散らす二人に完全に萎縮してしまっていると、長次郎さんが私に話し掛けて来た。
「若菜さん。あなたはどうして宏光の妻になろうと思ったのか、理由を伺っても宜しいですか?」
「お父様、これに関しては私から申し立てがございます。このお二人は、互いにビジネス上のパートナーに過ぎないようです。宏光さんは、数カ月前、佐々木さんにビジネス上の妻として契約を申し出たとの話が耳に入っております。
場所は新宿付近の結婚式の二次会だそうで、決してお二人は本当の恋人などではありません」
私は凛さんのリサーチ力に、恐れ慄き脱帽してしまった。
「ビジネス上の妻?どこで仕入れた情報か知りませんが、俺は彼女と正式に婚約するつもりで恋愛しています」
私は驚いてしまった。
宏光さんがはっきり恋愛していると口にしたことを公言したのは初めてだったから。
私が黙っていると、今度は宏光さんが尋ねて来た。
「若菜さんは?」
「私は…よそ者のために浅井のお家事情にはあまり詳しくありませんでしたが、今はそれらも含めて向き合う気持ちで宏光さんと交際させていただいております」
長次郎さんは私の言葉に頷き、凛さんは不服そうに此方を睨みつけた。
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