告白

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重くるしい雰囲気の中、始まった会議の一番の議題は、跡取りについてと浅井グループ全体の事業の統廃合について。 まず、一番最初に浅井グループ全体の人事統括である山本と経理部部長の内田が事業全体の売り上げや収益の状況、国内外のビジネスの課題と展開について、報告を読み上げた。 定例会でもあるこの浅井の会議は毎年年末のこの時期と、決算期である7月前後の年に2回行われる。 宏光自体はもう浅井グループの事業を請け負う立場にはないわけだが、前年より浅井電子の事業が経営危機に陥っていることから、人事の交代案が持ち上がるようになっていた。そこで、今回呼ばれたわけだった。 この浅井電子は15年前、重工業や機械の製造をメインにしていた浅井グループが、ITテクノロジーの分野に乗り出すきっかけとなった重要な事業だった。 しかし、近年、半導体だけでは当然やっていくには心許無く、ドローン製造や医療エレクトロニクスの分野への進出も兼ねて大きな事業の転換を図ろうとしていた。 そこで、宏光が事業再編のために出した案がM&Aだ。2000年代頃から事業拡大や、収益アップを目的としたM&Aは頻繁に行われていたが、最近の風潮は少し違っていた。 それは浅井グループも抱えている後継者問題だ。日本企業の特に中小企業においては大半がその問題を抱えていると考えられている。 後継者のいない経営者や創設者が事業の売却や、簡素化などを目的に名のある大手とM&Aを行うことが多くなっているのだ。 ビジネスの流れが早い時代において、以前のような経営資源を自前で調達するのは、時間もリスクもかかる。そこで、最も効率よく経営資源を手に入れる手法がM&Aである。 買収というイメージの強いM&Aだが、近年は経営者層の高齢化や事業継続の問題を解決する上で、特に中小規模の企業にとってM&Aは大きなメリットがもたらされる。そのため、以前ほどに抵抗のない、いやむしろ積極的な経営者も多くなった。  今こそ、専門的な技術を持った企業をM&Aで手に入れやすいチャンスなのだ。 宏光は浅井電子の事業再編において、ある企業に狙いを定めていた。 それが、司エレクトロン、九州にある医療電子機器のメーカーとして高い技術を持つ会社だった。
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