告白

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「浅井電子については、開業して以来多くの課題を抱えていた。浅井は重科学分野でリードし手広く事業を拡大する一方で、電子機器分野への進出は出遅れてしまったこともあり、経営に関しても万全とは言えない体制だった。経営者層にメスをいれずにやってきたが、今回は経営に関しては自分のビジネスを手掛けてきた宏光に一任してみることにした。彼が契約を取り付けてきた以上、買収は進まずとも、まずは資本提携で電子工業分野での知名度を上げる必要があると思う」 長次郎が悩ましい顔付きでそう話した後、宏光が再び続けた。 「皆さんも、お分かりだと思いますが、IT分野でリードするには、重科学という旧態依然のやり方では心許ない時代になって来ました。電子工業分野、特に医療エレクトロンやドローン技術といった新分野にも積極的に事業投資をすると共に、重化学分野に投資する比率を下げてでも、業種の転換を図るタイミングに来ているように思います。これまでの知識や戦略も一度見直す必要があるのが事実です」 「キャリアコンサルだったかなんだか知らないけど、経済界の重鎮の浅井に対して随分と生意気な口をきくようになったもんだな、宏光?」 「そうだよ。新ビジネスだって、お前1人の力じゃなくて浅井の名を借りたからこそ始められたビジネスだろう?なあ、兄さん、こいつは俺らと違って浅井においてはいつだって特別扱いで来たじゃないか?親父もいいんですか?養子風情が、浅井を乗っ取っても?」 「まぁ、兄さん達より経営者としての手腕はあるんじゃないかしら?こないだ東証2部に上場させたそうじゃない?どんなビジネスやってるのかは知らないけど、浅井電子の今の知名度じゃ、そのうち抜かされてもおかしくないかもね?」 眞澄はどうやら弁が立つようで、兄達の痛いところを抉るように口で反撃していた。それもそのはずだ。 彼女の息子の明英はロボット工学で博士号を取った後、アメリカの企業でペットロボットの開発に携わっていた。 もし、日本に戻って来たのなら、彼のような技術者を浅井は積極的にリクルートした方がいい。圧倒的な技術者不足だと宏光は考えていた。 ただ、浅井の中には本家の重化学に力を入れたいようで、電子にはまだまだ十分な投資がなされていない。 いずれ財閥や現状の知名度だけでは、浅井グループそのものに危機が訪れることは明白だった。
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