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「で、お前は浅井電子を乗っ取ってどうするっもりなんだ?」
宏光が考えていると、隆文が憎らしげに宏光を責めたててきた。
「乗っ取るつもりはありません。ただ、このまま浅井を終わらせてしまうのは勿体無い気もします。後継者がいない、その問題と向き合うのは大事かなと」
「後継者がいない?智は?あの子は後継者なんじゃないの?」
「止めろ、智の話はするな」
父親である裕一郎が、隆文を睨みつけると目で牽制し始めた。
裕一郎の長男は浅井に入社したものの、トラブルを引き起こして、引きこもり気味になっていた。
そんな智が精神を患ってしまったんじゃないかと噂は度々持ち上がっていたが、実際のところ長男夫妻はこれについては否定したり、口を閉ざしたりすることが多かった。
「乗っ取るつもりは俺にはありません。ただ、立て直すための議論として、この資本提携は悪くない話だと思いますし、司の一番の魅力は実直な経営で技術者の育成に力を入れてこられた点です。浅井はそのあたりが、上手く行ってないように見受けられますから、すぐにでも技術者を育成するための人事研修やプログラム、マニュアルなどを作成して、優秀な人材の確保に努めた方がいいと思います」
「ところで、あなた誰と結婚するの?」
宏光が話終えると同時に、今度は長女の咲穂が畳み掛けてきた。
宏光は次々と質問が飛んでくるのに少し閉口しながらも、一息つくと、胸ポケットから一枚の写真を取り出した。
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