告白

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「彼女です」 その場にいた殆どは興味なさそうに白けた様子で顔を背けたが、眞澄はテーブルに出された写真を手にすると意味深な笑いを見せた。 「どうかされましたか?眞澄さん」 「別に。でも、あなた五芒星の取り決めはどうするの?養子とはいえ、あなたが次期後継者なら、神尾との契約は反故には出来ないはずよね。あなたが向こうに自分の子供差し出せないなら向こうだって怒ると思うわよ」 みんな自分は関係ないと言った様子で、顔を背けると、あくびをするような者までいた。 まさか、こんな馬鹿げた話が現代にあるなんて宏光は考えもしなかった。 日本にある三代財閥と日本の茶華道の名家松山と代々日本の古武道を担ってきた警察一家の四月一日。(わたぬき)この5つを五芒星と呼び、 彼らは互いの血筋を守るために、その内の長である人間に養子を差し出して、互いの身内同士で近親婚を図り、血を絶やさないようにしてきたという。 もし、一時的に妾になっても、互いの取り決めがあれば、内部同士で縁談をすすめ結婚という体裁をとることで、表向きに怪しまれぬよう配慮はしてきた。 そんなめちゃな結婚は表向きはともかく、うまく行くはずもなかった。長次郎の長女、咲穂は松山の長男との双子を21で身籠るも、一人を死産。松山で散々な嫌がらせを受けた挙句、摂食障害まで患うようになり、此方に戻ってきた。 その数年後、仕事関係で縁があった男性と結婚。後に子供を設けて今は穏やかに生きてはいるが、今でも影を落としているように見えることがあった。 そのため、咲穂は集会には現れるが、この後継者問題にはどこか冷ややかな態度をとっていた。 次女の眞澄には息子が3人。なんの制約もなく、大学時代に恋愛関係になった男性と結婚。この家で唯一幸せそうな彼女は姉と違い快活で、容姿も性格も、華やかだった。 佑介の母でもあるため、そう角は立てるわけにも行かないが、度々宏光には辛くあたることもあって、宏光としては苦手でもあった。 次男の隆文には3姉妹がいるが、後継者争いからは降りることにしていた。だが、自身が引き受けた浅井電子の経営には頭を悩ませている様子で、穏やかとは言いづらかった。 長男の裕一郎のところは一男一女で、息子の智は優秀ではあるが、会社では度々トラブルを起こし、そう笑える状況にもなく、娘も奔放でこの両親が苦労しているのは見てとれた。 お金持ちは豊かで選べるものが多くて、何一つ不自由のない暮らしをしているんだろうと、宏光は養子になるまで考えていた。 まさかこんなドロドロだなんて知っていたら、この家の養子になろうとは思わなかったかもしれない。 だが、さらに悪いことに、割り込んで来た一族がいた。 神尾一族だった。 彼らは松山や四月一日と手を組みながら、よからぬ企みを持っていた。 ある日、1人の幼い赤子を抱いた女が現れてからこの一族は彼女と神尾の傀儡に成り下がった。 その救世主として養子に当てがわれたのが宏光だった。
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