プロポーズ

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彼は私が答えを出せずにいると、痺れを切らしたように話を切り上げにかかった。 「すみません。詳しい打ち合わせはまた後日でもよろしいですか?そろそろ次の予定がありまして、勝手ながら面接は此方で終了させて頂きます」 「はい。今日はお忙しいのに色々質問に答えていただきありがとうございました」 「此方こそ、急なお願いにも関わらず御足労頂きありがとうございました」 彼はそう言うと、目の前に置かれたあの小箱を大事そうに手にとり蓋を開けて私へと差し出した。 「これは、今回お話を受けて下さるなら、当日付けて頂けたらと思って用意したものです。もし、良ければそちらと、この後もう一つご覧いただきたいものがありますので、付き合っていただければと思います」 彼がそう言い終えるか終えぬうちに、背後のドアからコンコンとノックする音が聞こえてきた。 「はい」 「約束どおりに迎えに来たわよ」 彼はソファーから立ち上がりドアに向かうと、ドアが開かれた途端現れたのは、目が覚めるような華やかな女性だった。 私は足下から順に視線を上へと上げていった。黒いエナメルのパンプスからは白い足首がのぞいて見えた。スラッとした長い足はワイドパンツのスッキリしとしたシルエットで包まれていて、更に視線を上げると、スッキリしたシフォンのノースリーブから細い腕が見えた。 最後に顔を確認すると、ダークブラウンのゆるく巻かれた髪にいかにもなサングラスと赤いリップが見えた。 「彼女がそう?」 「あぁ」 私はいきなりやってきた美女に圧倒されていた。だが、それは彼も同じ様子で、彼女はサングラスを外すと私をまじまじと見つめて来た 「まぁ、顔立ちは悪くはないかな?ただ身長はともかく、胸はあまりあるように思えないし、あのドレスが似合うかどうかは試してみないとわからない」 「まぁ、一度着て貰ってからサイズの直しはしてくださるみたいだから。ごめん、俺もう時間ないんだ。サロンに連絡したら佑月さんいらっしゃるみたいだから」 一体2人は何の話をしているんだろう。 そして、この後どこに連れて行かれると言うのだろう? 凡庸で取り柄もなかった派遣OLだった私。 でも、今はアラサーにして初めて味わう緊張感と高揚感の中にいた。 何かが始まるような、もう二度と引き返せないような… そんなざわめきで胸が揺らいだ。
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