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「佐々木は、今いい人いるの?」
いきなり飛んできた質問に、私がびっくりしていると、隣にいた灯里がかけていたお洒落なフレームのメガネをくいっと持ち上げて、尋ねてきた。
「そういえば、あの結婚式の日、誰かに声かけられてたよね?割と高めのスーツ着てて、スラッとした綺麗な男性だったように思うけど、あの人はなんだったの?」
私は灯里に必死にそれ以上言わないで欲しいと目で合図したが、彼女は躊躇う様子は無かった。
「何?何?結婚式の出席者ってこと?旦那側の知り合いかな?誰誰?」
菜穂を始め興味深々で、私の方にみんなの視線が注目していた。
中でも、ちょっと眉間に皺を寄せて視線を鋭くして私を見ている坂井くんは真剣そうだった。
「佐々木、何て言われたの?」
私は仕方ないなと、諦め半分に宏光さんについて説明することにした。
「経営者の方で、奥さんとは死別されてる。お子さんがいて、具体的な結婚とか考える余裕はないけど、仕事上の妻が欲しいって話だったけどね」
そう、元々はビジネスパートナーとしての存在でしかなかった。
「で、なんて返事したの?」
灯里は思っていたのと違っていたのか、ちょっと複雑そうな表情だった。
「たまに、デートしたり、連絡したりはあるけどね。まぁ、向こうも忙しいから…」
「それってさ、向こうが都合がいい時だけってこと」
「まぁ、お互いフリーだからね」
みんなが一瞬にして、この話から興味を失っていくのが見てとれた。
本当のことなんて話す勇気はなかった。
彼とリアルな結婚をするにはまだ障害も多いし、今本当のことみんなに公表しても、現実はどうなるか分からない。
私だって不安と闘いながら彼との関係を維持してるに過ぎないのかも知れない。
そう思っていると、ちょっと怒気を含んだような低い声が響いてきた。
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