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「なんかさ、そういうのって違うんじゃないかな。まぁ、お金あれば綺麗な女性買うようなこと平気で出来ちゃう人いるんだろうけどさ」
「坂井…」
狭間くんが、宥めるように肩を叩いていたが、坂井くんは不貞腐れた様子で顔を背けていた。
私はこうなるのが分かってるから、話したくはなかった。
でも、私にも言い分はあった。
「そりゃ、坂井くんには分からないよ。みんなにも分からないと思う。菜穂は仕事も家庭も順調だし、灯里も好きな仕事で上手く行ってる、狭間くんはもう家庭もあって、私は派遣したり、たまにモデルもしたりしてるけど、今も編集アシスタントで20万弱あればいい方。ご飯食べられるだけで十分で、そんな結婚とかいい仕事とか夢見る余裕もない…」
「若菜…」
私はそう口にしながら、目元が潤んで来たのに気づいていた、でも、これだけは言いたかった。
「でもさ、この街にいる以上ちょっとくらい夢見ることあってもいいんじゃないかな。間違ってるのかも知れないけどさ」
「若菜!!」
「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくる」
私は自分から目線を逸らして沈黙する坂井くんにそうぶつけると、その場を離れた。
悔しくて、辛くて、惨めで…
何度もこの街出ようかと思った。
実家も心配なのか帰ってくるように言われることもあった。
みんが、笑顔で自分の夢を叶える中、何一つ手に入れられていない私は、ちょっと顔とスタイルが良く産まれただけに過ぎない。
気付くといつも、男性にはいいように扱われていた。
私はトイレに入ると、洗面台に両手をついた。
俯くと涙がとめどなく溢れた。
不安で
不安定で…
将来のない自分の人生に嫌気がさしていたのは自分自身も同じだった。
それから、宏光さんと最後に夜を過ごした日を思い出した。
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