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プロポーズされた日の夕方、私は宏光さんの家に居た。
2人で買い物に寄って、宏光さんの家でビーフシチューを作った。
宏光さんが午前中に買って来てくれた美味しいと評判のフランスパンと行きつけの酒店で買い付けてきたワイン。それから、二人でビーフシチューと、購入したサラダと生ハム。それらを準備して、ある人が来るのを待った。
午後6時。彼はやって来た。
どことなく宏光さんにも似て利発そうな、でも、たぬき顔というかちょっと眠そうな感じの顔立ちをしていた。
「はじめまして、浅井碧音です」
声もなんとなく癒し系だ。
「はじめまして、佐々木若菜です」
私は彼からそう挨拶されて、慌てて頭を下げた。
「今日は、呼んでいただきありがとうございます。父からあなたのことを大事な人だと伺いました」
「はい」
碧音くんはそう言うと、父親を見上げた。
宏光は息子にまじまじと見つめられて、若干気まずそうにしていた。
「父はしっかりしてるところもあるけど、案外涙脆くて、鈍いところもありまして、結構面倒くさい人だと思います」
「はい」
私はちょっと半笑いになりながら答えた。
「碧音!」
宏光さんが拳をぎゅっと握ると、思いっきり息子を睨み返してるのが意外だったけど、この親子の関係性が垣間見える瞬間だった。
「父のこと、よろしくお願いします」
淡々と碧音くんはそう告げた。
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