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食事の味は気に入って貰えるか、気にはなったけど、その辺りはとくに心配なさそうだった。
あまり普段関わりのない年齢のお子さんだったけど、碧音くんはどうやら大好きなゲームがあるようで、宏光さんがその話題を振ると無邪気な一面を見せてくれた。
笑うと可愛いらしくて、きっと前妻さんに似てるんだろうと思うと同時に、宏光さんが息子に向ける眼差しには、どこか特別なものや懐かしむ気持ちを感じていた。
当たり前と言えば当たり前だった。
でも、ちょっと疎外感を感じることはあっても、二人とも仲が良いのが感じられてそれなりに馴染めたようにも思えた。
碧音くんは、お父さん思いで、素直ないい子なんだろう。
宏光さんはそれが分かっているから、浅井のドロドロした騒動に巻き込みたくないんだろうなというのが感じられた。
いつもより、笑顔が多めの宏光さんは、仕事モードや私といるときよりも遥かにリラックスしていたのか、食事の終盤碧音くんにこんなことを聞いていた。
「碧音、もしお前がここで暮らすなら、誰かお母さん代わりに居た方がいいと思った。若菜さんは若いけどしっかりしてるし、優しいから仲良く出来るよな?」
私からすると、その発言は大胆に思えた。
暫く碧音くんは、父の言葉に動きを止めると、ちょっと考えたような素振りを見せた。
そして、彼は真顔でこう言った。
「お母さんはいらない」
宏光さんは、飲んでいたワインに口づけようとして、止めると机にグラスを勢いよく置いた。
「碧音!!」
「宏光さん…碧音くんは悪くありません」
碧音くんは、父が不機嫌そうに自分を見下ろすのに耐えかねたのか、俯くとこう答えた。
「僕にとってのお父さんと、あなたにとってのお父さん、大事なことにかわりはないなら、僕は一緒に暮らすのは構いません。でも、お母さん欲しいなんて、産まれたときからいなかったし、思わないです。ごめんなさい」
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