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私は、屈むとキッチンの影に隠れて碧音くんを呼び寄せた。
「碧音くんって、きっとお母さんに似てるんだろうね」
「どうでしょう?」
「お父さん、碧音くんに甘えてるとこあるよね。ちょっと依存してるというか」
碧音くんはちょっと考えたような顔付きをしたけど、首を縦に振った。
「お父さんは心配症なんです。多分、僕が自由に生きられないのが何より怖いのかも」
「自分が頑張っちゃう反面、碧音くんの自由を奪ってることには気付いてなさそう」
碧音くんは目を大きく見開くと驚いていた。
「親が子供を心配したくなる気持ちは分かるけど、子供が親を心配する気持ちもあるのにね」
「はい…」
「碧音くんはお父さん好きなんだね」
彼は大きく頷いた。
私はちょっとだけ溶け始めたアイスを碧音くんに手渡すと、彼はこう言った。
「お父さんを幸せにしてあげて下さい」
まだ10歳なのに、碧音くんは本当にしっかりしていた。
私は何も返せなかったけど、再びテーブルを見ると、宏光さんは椅子にもたれ掛かったまま寝ていた。
碧音くんと私は互いに顔を見合わせると、食後のデザートを楽しんだ。
それから20分程。時刻は8時になろうとしていた。
碧音くんが帰る時間になっても結局宏光さんは起きなかった。
碧音くんは、そのままでいいと言って私達は玄関へ向かった。
祖母らしき人が玄関に来ると、私は軽く挨拶をして碧音くんを見送った。
別れ際、彼は礼儀正しく挨拶してくれた。
「今日はありがとうございました。どうか、父をよろしくお願いします」と、彼は告げて玄関を出て行った。
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