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「実際、結構好きでしょ?」
「坂井くん?」
「あっちは気はあると思うんだよね。私に連絡してきたとき、若菜の好きなブランドとか聞いてきたしね」
「あはは」
私は笑って誤魔化すしかなかった。
「だってさ、この歳だともう将来約束してくれる相手が居たら、他なんて霞んで見えるよ」
「灯里凄いな」
「愛だの恋だの言ってられるかって話よ」
いや、頭では分かってる。
もう嫌というほどに分かってる
どんなに頑張っても報われない恋愛なんて…
そう思う一方で、碧音くんの言葉が蘇って来た。
お父さんを幸せに…
「まぁ、考えたらキリないけどさ。この後、もう一軒行くんでしょ?」
「なんで、知ってるの?」
「ま、そんなとこだろうなと思ってた。ここ予約するとき、坂井くんも9時にはお開きにしたいかなって言ってたから」
灯里は察してたんだ。いや、坂井くんが露骨だっただけで、私一人が鈍感なだけなのかも知れない。
「待ってるだけじゃ望む幸せなんて来ないからね。分かってるよね?」
「う、うん」
「じゃあ、戻って。私トイレしてから行くわ」
灯里はそう言うと、ニンマリ笑っていた。そして、ドアを開けると私をトイレから押し出した。
私がトイレから出て、振り向くと見えたのは、壁を背にして心配そうに此方の様子を伺っている坂井くんの姿だった。
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