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私は彼と目が合った瞬間、慌ててもう一度トイレに隠れた。
気まず過ぎてなんて言えばいいのか分からない。緊張してしまってどうにもならなかった。
私は再び鏡を見た。なんかちょっと顔が緩んでる気もする。容姿を確認し、髪型をちょっと整え直して、一呼吸してから再びドアから出た。
坂井くんは私に気づくと、こっちに近づいて来た。
「ごめん。何も知らないのに言い過ぎた」
「ううん。いいよ。私の方こそ取り乱してごめん」
私は笑ってその場をやり過ごそうとした。
「あのさ…」
「うん」
坂井くんは私の手を左手で取り強く握りしめると、一瞬恥ずかしそうに目線を逸らした。
だが、次の瞬間私を自分に引き寄せると、右腕で肩を抱き寄せて、耳元に甘くそのいい声を響かせた。
「次、日本発つ時、お前連れて行けたらなって思ってる」
あぁ、こういうのってダメなやつだ
私は彼の方をチラッと確認すると、ちょっと切な気に自分を見つめ返す坂井くんと目が合った。
私の意思はぐらぐらだった。
だから、彼があっさり唇を奪うスキを与えてしまった。
一瞬時が止まったかのように感じた。
あの優しい笑顔が目に映る。
彼は照れ臭そうに顔を背けるとこう言った。
「後で二人で話合おう。俺先戻ってる」
私は彼から慌てて離れると、正気を取り戻すために呼吸を整えた。
あんまりにも緩いんじゃないか
私ってこんなにも遊ばれやすい体質だっけ?
なんか無性にやるせなくなって後ろを向くと、今度は赤面して、何かいけないものでも見てしまったかのように両手で顔を覆う灯里と目が合ってしまった。
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