プロポーズ

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ドレスを試着して、試着室から出てみる。 「あら、似合うじゃない??」 「確かに、背が高い分様にはなってる」 千暎さんと佑月さんがそれぞれ口にした。 私もちょっと背筋を伸ばして誇らしげに鏡の向こう側にいる自分を見つめた。 シルバーのドレスだった。 優雅さと繊細で神秘的な華やかさを兼ね備えた大人びたデザインのドレスはパールのように白い刺繍糸で、蝶と白い花が綺麗に刺繍されていた。 まるで足元から、はるか点高く蝶が飛び立つようなデザインのそれは、身を包む本人がその生命を見守る木々のような気持ちにさせてしまう。 なんとも不思議な気持ちにさせるドレスだった。 「いいわねぇ。これね、割と人気で試着したいって申し出は度々いただくんだけど…ちょっと身長高めの方向けに仕上げてあるからかな?なかなか似合う人はいないんだけど、あなた随分背高いし、それにこのヒップ。30にしてはラインが綺麗」 「確かにヒップラインといい、デコルテといい、首も細長いし、マーメイドドレスのラインが似合う体型かも…」 二人は顔を見合わせると、怪訝そうに首を傾けた。 私は2人に色々と勘ぐられるのが嫌で話題を切り替えよえとした。 「褒めていただきありがとうございます。でも、お二人もあまり時間ありませんよね。これ、とっても素敵でした。なかなかドレスなんて着る機会なくて、つい目を奪われてしまってはしゃいでしまいました。もう脱いできますね」 私は試着室の中に戻ると、再びドレスに身を包んだ自身と向き合った。 私が再びこれを着ることがあるとは思えない。 でも、少しだけ想像してみた。 真っ白なタキシード姿の浅井さんと、綺麗にメイクもヘアもセットして貰って白い薔薇のブーケを手にした自分の姿.。 あぁ、これが本当の結婚ならな 私は鏡の中で不安そうに憂いだ自分に指を突き立てると、妄想を振り払うかのように首を左右に振った。
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