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「随分飲んでますね」
「あっ、はい…すみません」
私は声をかけられて気が動転したのか、手元にあったワインをこぼしてしまった。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です」
幸いなことに服は汚れずに済んだが、気づいた店員さんの持ってきた布巾でテーブルを拭いていると、再び話かけられた。
「それよりちょっとお時間いいですか?」
「なんでしょうか?」
私が顔をあげると、上品そうな雰囲気のオールバックの黒髪の男性が、微笑ましく此方を見ていた。
今まで、あまり男性と縁がなかった私の中でも、特別縁の無さそうなタイプだ。気品を感じられる鼻筋のスッと通った顔立ちで口元はキュッと引き締まっている。高級感あるグレーのスーツに身を包み、身長もそれなりに高そうだった。
「あの、こんなところだからってわけではないんですが、僕妻を探してまして…」
「奥さん行方不明になられたんですか?」
彼は私がそう聞き返すと愛想笑いで首を横に振った。そして、こう告げた。
「妻になれる人を探してるんです」
私の酔いはその瞬間、一気に吹き飛んだ。
「そ、そ、それは…」
まさか、こんなところでいきなりプロポーズ!?
私が酔った顔を更に真っ赤に染めていると、相手はスーツの胸ポケットから名刺を差し出してきた。
私は名刺を受け取るともう一度彼の顔を見た。
「僕、この会社で社長をやってまして、その妻になってくれる人を雇いたいと思ってるんです」
「は、はい」
妻?!雇う??
良く分からない…
私の頭の中は唐突な出来事に疑問符だらけだった。
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