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「そちらのお嬢さんは、新しいパートナーかな?」
「は、はい。後できちんと紹介させていただこうと思ってました」
宏光さんは恐縮した様子で再び頭を下げながら、隣にいた私を自分に引き寄せた。
「初めまして。佐々木若菜と申します。今回はこのようなパーティーにお招きいただき大変感謝しております。緊張で上手い言葉が見つからないのですが、宏光さん共々よろしくお願い致します」
私がそう挨拶すると、相手は怪訝そうに此方を見つめ返して来た。
「結婚するっていうには随分他人行儀なんだね…」
「若菜は5つ下でして、出会って日も浅く僕が忙しいこともあり、まださん付けで呼び合うことが多いんです」
「彼女は幾つかな?」
「今年30です」
私が答えると、笹井会長はふんふんと頷いた。そして、再び宏光さんに視線を向けると話始めた。
「浅井くん、僕は結婚自体は大変喜ばしいことだと思ってる。でも、君は再婚なんだし、初婚のお嬢さんいただくなら、身辺には気をつけた方がいいよ。きっと、君みたいなエリート経営者は周囲が噂のネタを探して色々とかぎ回ってくるからね。暫くは大人しく家庭と向き合うことに専念した方がいいだろうね」
「それは勿論。私ももういい歳ですので、仕事も人生も落ち着いて取り組むよう最善を尽くすつもりです」
笹井会長はそれを耳にし、含んだような目つきで宏光さんを見上げた。
「まぁ、正直なところ君のプライベートにあまり口を出す立場にはないと思うんだけれど、このプロジェクトにも、その色んな考えの人が居てだね。君の立場を考えると、つい差し出がましいと思いながらも助言してしまいたくなるんだよ」
笹井会長の口ぶりは先程のような温かみはなく、毒気を帯始めていた。
宏光さんは少し不安そうに私を見ると自分から離れるよう目で促した。
私は相手が不遜な態度で、此方を威圧してくる様に恐れを覚え、頭を小さく下げるとスッと身を引いた。
私が宏光さんから離れるのを確認すると、笹井会長はニコッと私に微笑み、彼を連れてその場を去って行った。
私は申し訳なさそうに何度か此方を振り返る宏光さんに小さく手を振り返すと、スッと伸ばしていた背筋を緩めて周囲をぼんやりと見回した。
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