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宏光は笹井に連れられて、大ホールの中央にある階段を降りて行った。
すると、階段の下で和かな笑顔を此方に向けて手を振っている女性がいた。
「はじめまして。浅井様」
ブルーのドレスに身を包み、黒髪の髪を丁寧にアップし、にっこりと此方を見た彼女は、装いのシックさに比べると、少しあどけなさの残る笑顔だった。
宏光は驚きを隠せず、笹井の方に不安そうに視線を向けた。
「笹井会長、どなたですか?」
「私の甥の娘だ。甥には我がグループのマンション管理事業のトップとして、今回のプロジェクトの全権を委任している。彼女自身、このプロジェクトには大変興味を持っており、現在父と共に管理事業部のサポートセンターの統括として、君と共にプロジェクトでも深く関わるようになる」
「それは大変失礼致しました。株式会社 B&M (ブリーチ アンド ミーティング)の代表取締役を務めております、浅井宏光と申します。今後プロジェクトを通して、お世話になることも。多くあるかと存じあげますが、何卒よろしくお願い申し上げます」
宏光が挨拶すると、彼女は先程より更に穏やかな表情で柔らかく微笑み、小さく一礼すると自己紹介を返してくれた。
「笹井幸穂と申します。この度は我が社との共同プロジェクトにご協力頂き、大変感謝致しております。我が社の初めてのソリューションビジネスの立ち上げにおきまして、多く助言をいただきましたこと心より感謝いたします」
宏光は彼女に手を差し出されたため、しっかりと握り返した。
「いえいえ、私自身まだこの業界においてまだまだ成功者と呼ぶには相応しくなく、貴社のような大企業と共に新たなビジネスを立ち上げられる機会を得ましたこと、大変心より嬉しく思っております」
「そのようにおっしゃって頂き此方も光栄です。是非、このパワーレジデンス事業の更なる発展を目指すべく、ビジネスパートナーとして公私共に良い関係を築けますよう、全力を尽くすつもりでおりますので、父共々宜しくお願いいたします」
宏光は深く再び彼女に頭を下げた。
彼女の柔らかくも、しっかりした眼差しに宏光は心を激しく揺さぶられながらも、精一杯の笑顔を作って返した。
笹井会長が満足そうにそんな二人を見ていたのを見て、宏光は嫌な予感を覚えていた。
「さあさあ、お二人とももうすぐパーティーの開幕だ。その前に向こうで、これからの話をしようじゃないか?」
宏光は笹井がニヤけた様子で自分の肩に手を回すのを制止すると、キッと睨み付けた。
「一体、何を考えていらっしゃるんですか?」
笹井はフッと笑うと宏光の耳元でこう言い放った。
「話ならもうまとめてある。君の秘書は随分優秀だった」
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