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一人きりになってしまった私は、キラキラしたシャンデリアのライトやゴージャスな装いの人々に酔ってしまっていた。
ここには知り合いも誰もいない
宏光さんしか…
若菜はぼんやりと遠くを見つめていると、背後から肩を軽く叩かれた。
見知っている爽やかな笑顔だった。
「千暎さん!!」
「あんまり楽しめてなさそうね」
「あっ…そうですね。慣れないんですよね、こういう雰囲気」
「私もそう好きじゃないけど」
「お仕事でいらっしゃったんですか?」
「それもあるけど…」
「もしかして心配で様子見に来て下さったんですか?」
千暎は答えなかった。代わりに目を細めて笑い返してくれた。その笑顔が何ともセクシーで、若菜は思わずドキっとしてしまった。
彼女に悩みがないわけじゃないのは分かっているけど、やっぱり凛々しくて自信もあってカッコいい。
それに引き換え私は着ているドレスも自分に不釣り合いな気がして…終始落ち着かなかった。
それにつわりもあってか、胃の奥から喉元に込み上げてくる胃酸で喉元がヒリヒリとしていた。
「大丈夫?何か飲み物でも飲むならとってくるけど?」
「あ、大丈夫です」
そう口にしたものの、その目尻は言葉を裏切るように涙で光っていた。
「ちょっと、外出ようか?」
「いえ…それは」
「いいから」
千暎さんは半ば強引に私の手をギュッと握りしめると、ホールの窓側へと向かった。
人気のないバルコニーに出ると、風が気持ち良かった。階下にはネオン煌めく小さな街並みとまだ青みを残した夜空が広がっていた。
だが、そんなロマンチックな風景に心をときめかせる余裕は今の若菜にはなかった。
また、それは隣に居た千暎も同じようだった。
彼女は私の手をパッと離すと尋ねて来た。
「単刀直入に聞くわ。あなた本気で浅井さんの妻になる気はあるのよね?」
彼女は何か思い詰めるような切迫感のある面持ちで此方に鋭い視線を向けて来た。
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