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「どうされました?大丈夫ですか?」
「あぁ。はい大丈夫です」
宏光は少しよろめきながらも、返事をしっかり返した。
「ご気分が優れないなら、ちょっと外気にあたられますか?」
幸穂が心配そうに宏光を気遣い、彼らから離れるとバルコニーへと案内した。
2人はそこに辿り着くと、設置されていたソファーへ向かった。そして、幸穂は顔色の悪そうな宏光を気遣うように両肩に優しく手をかけると座らせた。
「本当に大丈夫ですか?」
「えぇ。大丈夫です」
「あまり体調も優れないようですし、お怪我の方もまだ良くないのでは?無茶なさられるのはお身体に障りますよ」
「ご心配、ありがとうございます。でも、その今日のために準備を進めて来た以上、皆にご迷惑をかけるわけには…」
幸穂は宏光がそう申し訳なさげに話すのを、少し不安げな様子で黙って受け止めていた。
宏光はそんな彼女を前に更に続けた。
「幸穂さん、あなたに確認したいことがあります。いいですか?」
「えぇ、何でしょう?」
宏光は幸穂の耳元に顔を近づけると
「笹井会長の本当の狙いは浅井で合ってますよね?」
幸穂は少し目線を泳がせた周囲を警戒してから、小さく首を頷かせた。
「彼は何のために浅井に取り入るつもりですか?」
「それは、言えないというより、よく分かりません」
幸穂は何も知らないといった様子で首を横に振った。
「不動産の大手である笹井ホールディングスと重化学の分野をリードしてきた浅井の資本提携
がなされれば注目は集まるかと思います。ですが、浅井には現在…」
「後継がいない」
幸穂はそう言ってニコッと微笑んだ。
宏光はそんな彼女に対し罰の悪そうな顔をすると、彼女から目を背けた。
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