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千瑛さんだった。
「ダメよ!その子から離れて!!」
「千瑛さん!」
私が彼女の存在に気付き名前を呼びかけると、彼女は一瞬怯えるような表情を見せたが、キッと睨みつけると私の背後にいる彼を威嚇した。
「あぁ、久しぶりだなぁ。千瑛ちゃん」
「何が千瑛ちゃんよ。私はあんたを許してなんかないから」
私が睨みつけ合う二人の間で戸惑っていると、中野さんは急にやれやれといった表情でこう告げた。
「昔のことなら謝るよ。でも、君に関係ないはずだ。何故、そこまであいつに執着してるの?」
千瑛さんは中野さんを睨みつけたまま、私の側にやって来ると、肩を掴んで自分の側に寄せようとした。
「それはこっちのセリフよ。浅井さんと長くいる間柄で、あんた達の関係を知らないわけないじゃない?」
「まぁ、それは…」
「今更謝って済むような関係じゃないでしょ?浅井さんはもう何年もあんた達を遠ざけるようにして生きて来た。それなのに、どこまでも蛇のごとく彼の人生の節目に現れては、悉く台無しにしている。たとえ兄弟でも、もうあなた達は…」
「分かってる…。君の言いたいことはよく分かる」
中野さんは、凄い剣幕で啖呵を切る千瑛さんを制止しようと両手を翳した。
私はヒートアップしていく千瑛さんを隣に何も出来ずに様子を見守っていたが、中野さんが心底申し訳なさそうにロクに反論せずにいる様子を前に、彼の本心が知りたくなった。
「千暎さん、中野さんと浅井さんは確かにいがみ合ってる部分はあるのかも知れません。でも、お二人なりのどうにもならない事情があって」
「どうにもならない事情?兄の妻を死なせることが?」
千暎さんは私の言葉を遮るようにして馬鹿にしたような口調で問い詰めて来た。
そうか…
私は2人が兄弟と言うのには、あまり違和感を覚えなかったが…
彼が初音さんを陥れたんだとしたら…
「浅井さんはきっとどんなことがあっても、凛やあなたを赦すことはしないわよ!あの人の人生を引っ掻き回し続けたあなた達の罪が軽いとでも?」
私が何も反論出来ずいると…中野さんは諦めたようにため息を漏らした。
私は二人の並々ならぬ、険悪な関係性を目の当たりに、自分のような新参者が出る幕ではない話だと気付いてしまった。そして、中にいる宏光さんが心配でたまらなくなって来た。
もし、凛さんと宏光さんが出逢えば…
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