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宏光は、向けられたナイフを前に絶望を覚えることはなかった。
むしろ…
いや、今はそんなことを考えている場合ではなかった。
相手が誰か分からない間は、慎重に接する必要がある。
相手は向けたナイフを取り下げる様子もなくじっと此方を狙っていた。
宏光は黙ったままの相手にもう一度尋ねた。
「あなたは誰かに頼まれて俺を狙ったのか、それとも自分の意思でここへ来たのか?」
相手は何も答えなかった。
宏光は背丈を考えると、女性とは考え辛いと思う反面、その人物に思いあたる節があった。
「俺をどうしたい?」
相手はまた答えなかった。
だが、答える代わりにナイフを持った右手と反対側の手をポケットに突っ込むと、見覚えのあるアクセサリーを見せてきた。
宏光は誰もいなくなったステージ上を見回すと、小さくため息をついた。
「どうしてお前がそれ持ってる?」
宏光が問い詰めると、相手は意外な言葉を口にした。
「終わりにしよう。お前の人生、このままじゃ永遠にイタチごっこだ」
宏光はその言葉に相手が誰かを確信した。
「佑介か…お前、まさか!!」
宏光は目をガッと大きく見開くと、相手は目深に被っていたキャップを脱ぎ捨てた。
「あぁ、そうだよ。俺が凛殺してやった。いや、違うな。楽にしてやった」
宏光は佑介の言葉に脱力すると、その場に腰から崩れ落ちた。
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