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私が高野さんと別れて家に戻ったら、午後8時を回っていた。
まぁ、とりあえず面接を希望して話はそれからという運びになったことで、少しだけ気が楽になった。
だが、あの件そろそろ返事しないとなと思っていたら、家の前に見慣れない派手な車が停まっていた。
一体誰だろう?珍しいなと思っていたら、中から人が降りて来た。
浅井さん?!
私はしばらく驚いて固まっていると、彼はスタスタと歩いてこっちへやって来た。
「佐々木若菜さんですよね?」
「は、はい」
「もう週末です。返事そろそろ頂けたらなと思いまして」
「あ、はい…」
浅井さんは身長が高かった。おまけに夜会うと、眼光がより強く見えるからか、見下ろされるとさらに威圧感が増した。
私が黙ってなんと答えようかと考えている間、彼は無言だった。
「お、お断りします」
「理由は?」
「理由なんて、そんなのはないけど、とにかくお断りします」
私は近寄ろうした彼に対して、後退るように一歩引くと、彼は私の腕を掴んだ。
「待って」
彼に右腕を掴まれたまま、膠着状態になってしまい、どうしていいか分からないままいると、近くの住人が横を素通りしていった。
ここで口論するのは恥ずかしいと思った私は、彼の腕を掴むと、アパートの中へ入った。そして、彼を引っ張って、階段を上がると自室の前に来た。
「下で話合うと、近所に迷惑だから中で話しましょう」
私が鍵を開けると、彼はパッと手を放した。
「いや、中には入れない」
彼は遠慮がちにそう言ったが、私は彼のスーツの襟を掴むと扉の中へ引き入れた。
「近所の人に迷惑なんですよ、いきなり押し掛けてくるなんて。話があるなら、ここでどうぞ」
「わ、わかった。とりあえず放してくれませんか?」
私が思わず上を見上げると、そこには綺麗な浅井さんの顔があって、視線が絡んでしまった。
「す、すみません」
私はパッと掴んでいた襟を放すと、彼はちょっと照れ臭そうに笑いジャケットを整えた。
「随分、大胆なんですね」
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