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「気になることってなんですか?」
「あなたが登録してる派遣会社、もしかしたらそう信用出来ないかもしれませんよ」
私はパッと浅井さんを放すと、廊下に投げられていたトートバッグの中にある今日貰った資料を見に戻った。そして彼の目の前にそれを突きつけた。
「ちゃんとした会社だと思いますけど、手続きにも不備ありませんしね。不払いとかも一度もありませんよ」
「まぁ、信用出来るかどうかは規模だけじゃ分からないと思うけどね。やっぱり、Buzz richか。だろうなと思ってた」
浅井さんは私が見せた資料を手にすると、内容を確認していた。
Buzz richはそこそこ大きな広告も打つような派遣会社だ。特に何か経営体質に問題があるとか、悪い噂もないとは言えないが、最近表立ってはあまり聞かない。
それにどの会社もある程度の規模になれば色んな噂はあるものだった。
担当者の高野さんもちょっと胡散臭いけど、毎回渋々とはいえそれなりの仕事を持って来てくれた。
浅井さんの会社より、年数も規模も大きい。だから、彼にとっては面白くないのかな?
「あなたの商売敵ですもんね、そこ。確かにあなたにとっては面白くないのかも」
「まぁ、あなたが選んだならそれでいいんじゃないですか?」
「いちいち嫌味ですよね。どうして私に執着するんですか?」
彼はまた言葉を詰まらせていた。
やっぱり何かあるのかな?彼と私…
「あなたが引き受けない以上、これ以上お答えするつもりはありません」
「引き受けたら答えてくれますか?」
私は上目遣いに浅井さんを問い詰めた。
すると、彼はまた気まずそうに視線を泳がせた。
「来週まで待ちます。金曜日の5時、久野に迎えに来させますから、空けておいて下さい」
彼はそう言うと部屋を出て行った。
私は一瞬、頭が真っ白になっていた。
我に返って玄関を出ると、彼が車に乗るところだった。
一体?
あの人はなんなんだろう?
私は走り去った青い車のテールランプをぼんやりと眺めていた。
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