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「まぁ詳しくは、後日お話したいと思うので、連絡先交換させていただけませんか?」
彼は私の混乱をよそに強引に話を進めようとした。
「ちょ、ちょっと待って下さい。妻って何ですか?それに雇うって何なんですか?そんな急に言われても…」
「それなりに、待遇の方は考えさせていただきますよ。前職よりはお給料はずませていただきますので、検討いただけませんか?」
彼はそう言うとスッと私の耳元で手を翳すと囁いた。
「さっき、ご友人との会話をちょっと耳にしてしまいまして、あなたが無職だと」
私はパッと身を引くと、彼はニコニコ笑いながらこう続けた。
「少なくとも、前職よりは時給も待遇も良くなるはずです。一度検討お願い出来ませんでしょうか?」
「いや。いきなり言われても何がなんだか…」
彼は表情を曇らせた。
私はそんな彼を前に無駄な気遣いに走った。
「あ、いや確かに仕事は探してるので、ありがたいお話ではあるんですけど、ちょっと分からない部分があるというか…」
「あはは、そうですね。いきなり、こんな話されても困りますよね」
私は彼に警戒心を持ちつつも、つい笑顔にやられそうになっていると、彼は表情を真顔に戻した。
「とりあえず、此方名刺です。来週の水曜日の午後2時にオフィスでお待ちしてますから、履歴書だけお願いします」
私は名刺を受け取ると、その眩しいばかりの笑顔に負けて何も言い出せずにいた。
すると、彼はスッと立ち上がって、足早に店を去って行った。
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