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「そう言えば、面接どうなったの?」
「面接…ああ!」
私は思わず声を大きくしてしまった。
二度目とあって浅井さんは、苛立ちを覚えたのか眉間をピクピクとさせながら、此方を睨みつけた。
「すみません」
「まだみたいですね、結果」
「はい…駄目だったのかも知れません」
彼はちょっと私がしゅんと項垂れたのを見て、まあ、そういうときもあると濁すと、もうその話題を口にしようとはしなかった。
「ところで、そのワンピースなかなか似合ってると思うけど、気に入りましたか?」
「えっ?これは久野さんが選んだんですよね?」
私はそう尋ねると、なんとも言えない表情で彼はネクタイを締め直した。
そこで、ようやく私のドレスと彼のネクタイの色がお揃いだと気付いた。
「これ、貴方が選んだんですか?」
「一緒に選んだかな。似合うと思ったんです、ワインレッド」
私の頬はみるみる染まっていった。
「やっぱり、こう言うのもう小っ恥ずかしいかな。悪かった」
「いえ、全然。私こんな、こんなちゃんとしたデート初めてです。ありがとうございます」
「大げさだな」
彼は呆れた様に言った。
でも、私はそのとき、初めて浅井さんに対して素直になれた気がした。
30近くにもなって、こんな初々しい気分になれるとは思ってもいなかった。
私にとって彼の存在も夜景もドレスも非現実的なはずなのに、胸の高鳴りと痛みだけはあまりにリアルだった。
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