初デート

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「ち、違います。食べたことはあるけど、ちょっと雰囲気とか、最近あんまり贅沢出来なかったから」 「まぁ、派遣じゃフレンチは無理か」 私はムッとしたが、まあ事実だなと思って食事に戻ることにした。 すると、今度はスープが運ばれて来た。 「此方、にんじんのポタージュとビーツとほうれん草をのソースでございます。まずはそのまま召し上がっていただき、お好みで此方のソースを掛けて味の変化をお楽しみ下さい」 「わぁ、色が綺麗」 「子供みたいですね」 「だって、昔思い出したんですもん」 「昔?」 浅井さんはそう言うと、興味深々な様子で尋ねてきた。 「うん。子供の頃、親にたまに連れて行って貰ったちょっといいレストランがあって、いつも良く食べてたメニューがあるんです。大きなエビフライが二本乗ってて、コーンポタージュとサラダとパンが付いていて、最後にはデザートが出てくる。こんなカラフルなご飯があるんだなぁって。なんかたまの贅沢って感じがして、私はそれが好きだったなぁって」 「ふーん」 「ないんですか?浅井さんは家族でご飯食べに行ったこと」 「さぁ、覚えてないかな」 彼はちょっと気まずそうに目線をそらせると、徐にスープを一口すくって口に放り込んだ。 浅井さんって、過去のことがあるからかもしれないけれど、生活感を感じさせるのが嫌なのかも知れない。 でも、時折見せるあの寂しげな表情を見るたび、私は彼が気になって仕方なかった。
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